不断煩悩得涅槃

煩悩を断ぜずして 涅槃(ねはん)を得るなり

                     親鸞『教行信証』

 

 煩悩を断滅して自己の完成をという、

理想主義がもつ観念的虚構性を親鸞は見破った。

あくまで煩悩を引きずる現実のただ中で、

(かえ)って煩悩を知見する智慧(ちえ)の獲得により、

煩悩を乗り越えていく道に立った。

何が人間を覚まさせる真実か、何が人間を眠らせる虚偽か、

その見極めの歩みであった。

 小学校の教員をされるT氏から、

かつて聞かされた告白が、

いまもわたしの中に生き続けている。

いわく、

「親鸞の教えにふれて、自分のこれまでの価値観とは

異なるもう一つの価値観があったことに、とてもおどろいた。

いま一つは、人生とはこんなものだと(なま)悟り、

なかば開き直っていた自分が、

生きることに一つの緊張感を

あたえられていくことは、とてもうれしい」。

 

2004年2月8日

[前住職] 

                       

 

 

 

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