天下におのれ以外のものを信頼するより
果敢(はか)なきはあらず しかもおのれほど頼みになら
ぬものはない
夏目漱石
門下の森田草平に宛てたこの書簡は、「どうするのがよいか。
森田君、君この問題を考えたことがありますか」、と問いかけて結ぶ。
ところで文面の前半はまだわからぬでもないが、後半はまったく難問だ。だがそこに一点、その秘鍵(ひけん)が内蔵されていないか。
こんなことばに出会った。
「老、病、死、このあたりまえのことが、ただごとでないことを、身体(からだ)から教えてもらう、このごろ」。これだ! 頭からでなく、身体からだ。身体「存在」が真理表現なのだ。
身体を支配しようとして、逆に支配欲の自分の幻想性が知らされる。自分が自分の足もとに落下する。ほんとうの自分が生まれ出る ―蝉脱(せんだつ)のごとし―。
2001年8月26日