中日新聞 〈人生のページ〉 ⑫

 

天下におのれ以外のものを信頼するより

果敢(はか)なきはあらず しかもおのれほど頼みになら

ぬものはない

夏目漱石

門下の森田草平に宛てたこの書簡は、「どうするのがよいか。

森田君、君この問題を考えたことがありますか」、と問いかけて結ぶ。

ところで文面の前半はまだわからぬでもないが、後半はまったく難問だ。だがそこに一点、その秘鍵(ひけん)が内蔵されていないか。

こんなことばに出会った。

「老、病、死、このあたりまえのことが、ただごとでないことを、身体(からだ)から教えてもらう、このごろ」。これだ! 頭からでなく、身体からだ。身体「存在」が真理表現なのだ。

身体を支配しようとして、逆に支配欲の自分の幻想性が知らされる。自分が自分の足もとに落下する。ほんとうの自分が生まれ出る ―蝉脱(せんだつ)のごとし―。

2001年8月26日

 

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