中日新聞 〈人生のページ〉 ⑯

 

われ思う 故にわれ間違う

               ジャン・ピエール・ランタン

 

デカルトの有名な「われ思う故にわれあり」は、

あらゆるものを疑うことができても、

かく疑うわれの存在することは疑えないという、

つまり、「この、思うわれ」の自己確実性を主張する命題であった。

この一語を手がかりに、「われ思う 故にわれ間違う」

と言い放ったのは、標記のアメリカの科学ジャーナリストの

近著(丸岡高弘訳)だ(書名も)。

そこにはデカルトの一語に象徴される近代の人間のありかたを、問いかえす発想が読みとれる。

現代は進歩・発展の名のもとに、とどまるところを知らぬ人間の欲望の暴走が、

いま、あらゆる面で抜きさしならぬまでのシッペがえしをうけていないか。

わたしたちは、謙虚に立ち止まるべきことを強く促される。

「美しき停滞」を。

2003年2月9日

 

 

 

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