中日新聞 〈人生のページ〉 ④

あなたはあなたで在(あ)ればよいのです

あなたはあなたに成(な)ればよいのです

『ミリンダ王の問い』

これは古い聖典からの取意の文である。かつての知人の詩集で読んだ、

俳人、加賀千代女の句を想起した。

あるとき千代女が、加賀の藩主・前田侯のご前に召された。

殿さまは千代女をさぞ美女であろうと想像していたが、彼女の顔を見て思わず言った。

「そなたは日本一の俳女と聞いていたが、その顔はまるで鬼瓦じゃのお」

―人権蹂躙(じゅうりん)などと、いまは言うまいぞ― 。

彼女はニッコリ微笑(ほほえ)んで、即興の句を詠んだ。

鬼瓦 天守閣を下に見て

何と明朗なことか。現前のいのちの事実に謙虚に生きた求道者・千代女を想(おも)う。

自分を受けとる! この「生きる」原点が、真のユーモアの源泉だろう。

2001年7月1日

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