あなたはあなたで在(あ)ればよいのです
あなたはあなたに成(な)ればよいのです
『ミリンダ王の問い』
これは古い聖典からの取意の文である。かつての知人の詩集で読んだ、
俳人、加賀千代女の句を想起した。
あるとき千代女が、加賀の藩主・前田侯のご前に召された。
殿さまは千代女をさぞ美女であろうと想像していたが、彼女の顔を見て思わず言った。
「そなたは日本一の俳女と聞いていたが、その顔はまるで鬼瓦じゃのお」
―人権蹂躙(じゅうりん)などと、いまは言うまいぞ― 。
彼女はニッコリ微笑(ほほえ)んで、即興の句を詠んだ。
鬼瓦 天守閣を下に見て
何と明朗なことか。現前のいのちの事実に謙虚に生きた求道者・千代女を想(おも)う。
自分を受けとる! この「生きる」原点が、真のユーモアの源泉だろう。
2001年7月1日